カイロ的MMTの基本を検証してみる

MMTを科学してみようかなⅡ

私のやっている事は単純だ。この世界に入って最初の頃に頂いた疑問を考えようってだけの話し。
AK-MMTに関しては、「内部モデル」と「ユーザーイリュージョン」をきっかけに自分なりの決着をつけたつもりだ。しかしまだまだ完全に出来あがった訳じゃない。真実は霧の彼方にあり、そこに辿りつくまでの道のりには、いくつもの壁が立ちはだかっている。霧を払うか否かは自分次第である。
参考:■仕方なく考える神経学(筋紡錘にまつわるaneeroなりの考え)
そこで別の角度から、MMT検査は何を診ているのかを考えてみたい。もったいぶらない書き方で行こう。

■等尺性収縮なんて無い
筋のトレーニング方法は筋収縮の違いから
・等尺性運動:アイソメトリック・トレーニング
・等張性運動:アイソトニック・トレーニング
・等速性運動:アイソキネティック・トレーニング
と大きく3つに別れる。しかし、この分類名が、それぞれの運動特性を示していないのは、昔から言われている所だ。

等張性運動とは読んで字のごとく、5㌔なら5㌔の鉄アレイを使ったフリーウェイトでのトレーニングを指す。しかし、これをアーム・カールで考えた場合、運動開始直後は5㌔の負荷(張力)が得られるだろうが、運動終わり頃には加速がつき、5㌔よりも軽くなる。つまり等張性とは言えないのである。実はこの点を改善したのが、アイソキネティック・トレーニングで、運動開始から運動終了まで一定の負荷がかかるようになっている。しかし、これは等速ではなく、関節角度によって運動速度は変化するのだ。

そして誰もが不思議がらない等尺性運動。この運動形式でMMTを行う場合が多く、この等尺性運動に関しては深く考える必要がある。問題となる考えの一端として、その解釈がある。これは頭の良い先生のページにも誤った記述がされている(笑)。それは
「筋の長さが変化せずに筋が収縮」
というような表現。しかし、これはありえない。筋の長さが変わらずに力を発揮出きる訳が無く、アクチン、ミオシンは滑走し、筋(筋腹)は収縮しているのである。その筋が収縮した分、腱組織が伸張し、筋+腱の長さが維持されているのである。当り前の話しだが、分類名に惑わされて勘違いしている方も沢山いるだろう。名のある方が説明したり、著者だったりすると何の疑問もなく納得してしまうが、それはイケナイ。常に本質を探求しなくてはいけないのだ。

更にには伸張性収縮と言うのもある。腕相撲などで相手の力に押されながらも筋が頑張っている状態である。実は筋が発揮出来る力はこの状態の時が最も高いと言われている。

飛び上がれない高さ、つまりその高さまで飛びあがれるだけの筋力が無いのにも関わらず、その塀から飛び降りても無事に着地出きる。着地の際に落下加重を筋が吸収しているのだ。これは、筋からすれば最大限に頑張っている状態なので、細胞も破壊されやすい。そこからの超回復を考えると、一番筋力アップする方法でもあるだろう。
しかし、この伸張性収縮をトレーニング理論に取り入れた方法は確立されていない。いや。ある事にはあるのだが、危険な為にあまり公言されていないと言った所か。

絶対にオススメしないが、アーム・カールを例に上げると・・・まず肘を屈曲し、自分が持ち上げられないウェイトを持ち、そのウェイトの加重に負けないように頑張りながらも過負荷により肘が伸ばされて行く運動である。絶対にやらないほうが良い。確実に筋肉痛、最悪には二頭筋腱を断裂する可能性がある。私の二頭筋腱はボロボロであると思われる。

話しがズレたが、等尺性収縮ではなく、静的収縮(:スタティック・コントラクション)と表現したほうが正解だろう。

■何故MMTには静的収縮が適しているのか
筋力とパワーとを一緒に考えている術者も多い。トレーニングの業界では当り前の話しなのだが、
・パワー=筋力×スピード

である。つまり筋力を見ているのか、パワーを見ているのかを明確にしなくてはいけない

上記公式から見て解るように、パワーは筋力をアップさせただけでも向上するし、スピードをアップさせただけでも向上する。競技特性にもよるが、通常アスリートは両方向上させるように努力している。

つまり筋力が変化しなくても、スピードがアップする事でパワーは向上してしまうのだ。そしてスピードとは加速、つまり筋が収縮する距離に依存するのだから、筋が長い者が有利となる。収縮する距離が長ければそれだけ加速する事が出来る。バイクの最高速チャレンジに置き換えて考えれば容易に想像出来るだろう。ある程度の距離が無いと最高速には達しない。

と考えると体の大きな者が有利と言える。その通り。水泳でも長身選手の優位性が見られる。子供の頃熱心に水泳を習い、その後泳ぎを止めていた選手が成長期を迎え、テクニックも筋力も向上していないにも関わらず、身長が伸びただけで記録が向上すると言う話しは良くある。それを熟知しているコーチは成長期には筋力トレーニングをあえて控える。成長を抑制すると考えるのだ。身長の伸びが止まりかけた時にウェイトトレーニングを開始する。

ただ運動中の身体長が変化し、足底の感覚が左右する平泳ぎなどは昔から日本人も世界で戦える。また他競技で言えば、体重別に別れているものは日本人の活躍する余地がある。

また話しがズレたが、静的収縮に対して動的収縮は多かれ少なかれ発揮する力にスピードを与えてしまう。これでは筋力テストではなく、パワーテストとなる

パワーを計測したいのであれば、それはそれで良い。しかし筋力テストはあくまでも筋力に関わる神経学的な徴候をみたいのであるから、計測に加速や反動等の他要素が介入するのは好ましくない。よって筋力テストには静的収縮が適している

■探し物は何ですか
筋は錘外筋と錘内筋に別けて考えられるが、受容器であり効果器である所の筋紡錘に眼が行く。筋紡錘はγ運動神経によって錘内筋両端が収縮し、中心部が伸張された事をⅠa線維にて脊髄後角に伝達される。そこから脊髄前角にある同筋のα運動神経にシナプス結合し、錘外筋を収縮させるのが反射弓である。筋を伸張させる事によってこのシステムが作動する様を伸張反射と言う。

これらを考えると、MMTが筋紡錘の機能を診ているとするなら、筋紡錘の何を見ているのかを限定して考える必要があるだろう。γ運動Nによる筋紡錘の緊張を見ているのか、それともⅠa線維の機能を見ているのかを考えなければならない。

中枢に障害があった場合、γ運動Nは暴走しγループを介して筋は拘縮する。下位ニューロン障害では、出力そのものが途絶えてしまうので筋は弛緩する。MMTがγ運動Nによる筋紡錘の緊張と、1a線維、α運動Nを含めた反射弓機能を診ているのであれば、腱反射テストで事は足りる。

しかしMMTには随意的運動が介入するので、反射弓に関わる単純な神経回路を診ているのでは無いと言えるだろう。随意的筋出力には中枢が関与している訳で、その随意的出力を抑制する因子を探し出す検査と言えるだろう。つまりMMTとは、中枢の情報処理システムの問題を検査していると思われる。

では随意的出力を抑制する因子とは何か?何が原因となって筋出力を抑制しているのか?

■随意的運動抑制因子と注意
脊髄レベルに診られる抑制の代表は拮抗抑制である。筋紡錘が伸張されることによって、Ⅰa線維が興奮し、それが同錘外筋を収縮させる際に、抑制性介在ニューロンを介して拮抗する筋へのα運動Nを抑制する。

この拮抗抑制に代表されるように、ある動作を円滑に行う為には、それを阻害する神経伝達を抑制する働きがある。この抑制機構が脳内にも存在すると考えると、このようなシステムが作動し筋力を低下させていると考えられる。しかし脳にそのような制抑性因子が存在するのだろうか。

皮質での興奮と抑制の神経伝達物質には、それぞれグルタミン酸とGABA(γーアミノ酸)が関与している(他の神経伝達物質もあるが、専門的になってしまうので)。新皮質では全ニューロンの約1/5がGABAを放出する。これらGABAを放出する抑制性ニューロンの殆どは、軸索が短く、樹状突起の棘は少なく、シナプスは樹状突起か細胞体に直接接触している。これにより興奮性のニューロンよりも速く発火する。

ここで注意と言う問題を考えてみる。人はある対象に意識を向けると、他への意識が低下する。音を聞く場合の選択的注意の一例として、ある音に集中していると、他の音は無視しようとする傾向がある。無視しながらも無意識的には脳に刺激入力される訳で、意識に登らない状態での記憶には残るのだろう。この辺の機能を上手く利用したもので、聞く事繰返す英会話学習法などがある。このように注意とは、注意を向けていない出来事に対してフィルターをかけてしまうのである。

このフィルターには抑制性ニューロンが関わっていると考えられる。注意とは脳の特定部分を活動させる為に、他ニューロン活動を抑制しているのだろう。これらは日常的にもボクサーのフェイントや、満員電車でのスリ、キャッシュディスペンサーに書かれている2人組による盗難(例えが良く無いが)などは、手品師の技同様に注意時におけるフィルター効果を上手く利用している。

つまり、他の事に注意が働いた場合、随意運動抑制となってしまうのだろう。そりゃそうだ。人は同時に沢山の事を出来ない。解りきった話ではある。

■今回のアイテム
さて、面倒な性格の私としては、筋力テストの客観性(公平性)と言う問題で、数値化が必要と考えた。これまた様々な筋力測定機器があるが、おおげさな物や高価なもの、測定結果検出に時間のかかるものは使えない。私の勝手な持論だが
「早い。安い。簡単。」
の3原則が重要である。
1.「早い」
検査結果がすぐに解る必要がある。検査結果に数日を要していては話しにならんだろう。
2.「安い」
検査方法導入に大金がかかっては、一般化しない。つまり公平性の欠如や、他の術者による検証が難しいと言う事になる。まあ単に、そうそう高価な機器など購入出来ないと言う話しだ・・・(爆)。
3.「簡単」
検査結果の説明に難解なものや、検査方法そのものに様々な条件をつけないと正確性が無い、というものや、検査方法習得に難易度が高すぎるものは、客観性と言う問題をクリア出来ていない。つまりその人しか見れない、またはその集団にしか見れない検査と言うものは、一般的には賛同しにくいものだ。素人、専門家の双方が計測して、その差が少ない検査方法こそ再現性(信頼性)が高い検査方法と言える。
これらは頻繁に行う検査には欠かせない要素だと思う。
dynamo
Baseline Hydraulic Hand Dynamometer
・0~90kg

・・・スラスト力計測中に崩壊!!無念!!
そこで・・・

JA1
Jamar Hydraulic Hand Dynamometer
(どうやらコッチのほうが老舗のようだ)
性能はBaselineとほぼ一緒。
メーター回りはラバーで保護されている。
この先の話は趣味の範疇になるが、私はアナログメーターが好きである。時計もアナログが好きだ。筋力検査の数値化と言っても「どの単位までを取り扱うのか」と言う問題がある。これはコッホ曲線を見ても明らかなように、アナログメーターの60kgから61kgまでの間には無限に近い数値があり、数値を決定するには結局検者の主観が関与する事になる。本来明確に数値化するにはデジタル式のメーターにするべきかもしれないが、実際的な施術による変化は、小数点以下の数値に拘るほど小さな変化ではなく、アナログ的にもはっきりと差異が確認出来るほどの変化だと思われる。

逆に言うなら小数点以下程度の変化では、患者さんは納得しないだろうし・・・。まあ、小数点以下に神経質になる必要も無いだろうと言う事だ。

また、10cmの紙を3等分にするにはデジタル的には割りきれない数字となるが、感覚的には3つ折りすれば良いと言う単純明快さもアナログ表示が好きな理由でもある。

また、計測機器の構造は単純なら単純なほど良い。デジタル表示の構造など、私の頭ではそのメカニズムを想像する事すら困難で、筋力を考える以前の問題となってしまう。

その意味では、この握力計を用いた筋力テストは「適当な数値化」と言える。何の指標もなく、術者の腕だけで筋力を判断するよりは正確だし、かといって割り切れない数値が羅列するほど機械的でも無い。これは好みであるが・・・。


■とりあえずやってみる
トレーニングの原則に「意識性の原則」と言うのがある。つまり「意識を持ってトレーニングしましょうね」と言うキマリである。使う筋を意識する事でより筋力アップが望めると言う話なのだが、これは少しカジッタ者であれば誰もが納得している常識である。意識する事で筋線維動員に関わる運動神経稼動率を向上させる事が出来るのだと思う。つまりあまり意識しない状態では、40%の運動神経しか興奮しないが、バリバリに意識した状態ではその%が向上すると言う仕組みだろう。つまり他に気を取られてしまうと、うっかり筋力を緩めてしまうって話だ。
その「他に気を取られて」ってのがカイロの世界ではサブラクセイションって話になるのだろう。サブラクセイションからの求心的情報は意識閾値下であったとしても、脳へは入力されている。この意識閾値下の刺激が意識的作業に影響を与えると言うのは、日常経験しているだろう。我々は意識せずに車を操作している。道路、交通状況の変化(外部からの刺激)に、いちいち「アクセル、クラッチ、ハンドル」などと操作を意識していたら間に合わない。

しかし・・・通常MMTで使われる程度の筋力に差が出るものだろうか?そこで・・・

<左手握力の検査>
akmmt2
自動的に頚椎を屈曲、伸展、側屈、回旋させて各姿位での最大握力を測定。左手の握力としたのは、単なる自慢である。この時点で右は64程度しか無い。

姿位 中間位 屈曲 伸展 右側屈 左側屈 右回旋 左回旋 左スパーリング姿位
握力 70Kg 68Kg 70Kg 68Kg 69Kg 70Kg 70Kg 70Kg

ほぼ変化無しである・・・。
しかし・・・
「外力に対して固有受容器がそれを受け止め、その外力に対して抵抗するまでの反応を診る。」
と言うAK-MMT特有の考えがある。

つまり
「0.5秒以内での、外力に対する抵抗力の割合を診ている」
と言う事だ。そんなの術者が体感で正確に差異を検知出きるわけ無いだろう。そこで・・・

<フォースゲージ+アクチベーターによるMMT>
akmmt
アクチを打ち、その力をフォースゲージで計測する。ゲージに表れる数値が高ければ、腕はアクチの衝撃に負けずに固定していた事を示し、数値が下がればアクチの衝撃に負けて腕が固定出来ていなかった事になる。アクチはゼロリングとし、4回の計測でその平均値を出した。

姿位 中間位 屈曲 伸展 右側屈 左側屈 右回旋 左回旋 右スパーリング姿位
フォースゲージの値 1.600Kg 1.550Kg 1.600Kg 1.525Kg 1.600Kg 1.550Kg 1.550Kg 1.600Kg

・・・・ほとんど変わらない。
各姿位は結構限界に近い状態まで曲げたゾ。椎骨がセグメンタルに変位したとしてもここまで変位することは稀だと思う。
オイオイ。

グット・ハートセンセが提唱してから、誰も客観的に検証しなかったのかよ?それともAK-MMTもマジック?周知の事実で、皆それを利用しているだけなのかい?

個人的期待としては、実験にて差異が出て欲しかった。しかしだね。結果はこんなものだ。マジックならそれでも良いけど、そう言うのはコッソリ教えておいて欲しいものだね。

まあ、50歩譲ってサブラクセイションと自動運動とは違うし、痛みなどが誘発されていれば、更に違う結果になったかもしれない。また、この検査が適応しないのは私だけかもしれない。

■基本的な問題点
「灯台元暗し」と言うかなんと言うか・・・。MMTに関して基本的な問題点が浮上した。それは作用点の問題である。