注意:
デジタルフォースゲージに不具合があり、計測が不正確です。アナログメーターで計測し直した結果は
で御覧ください。
■アクチベーターってどうよ?
【はじめに】
私が所持しているのは、今や古いタイプの「Ⅰ」である。誰もがこう信じている。この機械で得られるスラスト力は、調整ネジ部によって一定に保たれ、スラスト力の強弱はそのネジ部を調整する事によって得られていると。本当にそうなんだろうか。当方が行った実験の結果、一見誰が扱っても同様の刺激が加えられるように思えるが、実際には術者による差異が発生する要素が否めない。また、アクチベーターによる刺激量は、徒手によるものとどう違うのかを考えてみたい。
【フォース・ゲージによるスラスト力の計測】
計測機器:デジタルフォースゲージ
計測方法:各アジャストメント方法による負荷をKgにて数値化する。10回計測しその平均を出す。
そこでイマダのデジタルフォースゲージ DPS-5である。 最大荷重値:2.0N(0gf)~49N(5kgf)まで 表示:符号4桁LCD 計測単位:N(ニュートン) 計測時間:20回以上/秒 許容負荷:定格200%(105%点滅警告) 使用温度:0~40℃ 電源:ニカド電池内臓、ACアダプタ 出力機能:デジタル(シリアル:RS232C)、ミツトヨデジマチック、アナログ(±約1VF.S.) 本体重量:約420g 機能:ピークホールド機能 検査機器としては申し分無い性能である。 |
ここで、問題になるのが、素早いインパクトに対して、計測機器が正確な数値を表記できるのか、と言う点である。しかしイマダのデジタルフォースゲージは20回以上/秒もの計測が可能となっている。つまり0.05秒ほどの非常に素早いインパクトにも対応可能である。しかし欠点があり、4.5Kg前後になると過負荷防止機能が働き、これ以上の負荷を計測出来ない。
また、どの時点から計測するのかも問題となる。この計測器は0.001Kg表示をしている。計測部に指を乗せた時点で0.3Kg前後の数値を表示してしまう。ちなみにこの機械で計測すると、パソコンのキーは約0.1Kgの反発力をもっている。そこで条件を統一する為に、CPを計測部に接触した時点で、一端数値をリセットし、表示を0とする。そこから実際にインパクトを加えるまでの力で計測する事とする。また、平均値の0.000秒以下は切り捨てとし、5Kg以上は計測不能とした。
各テクニックの計測に関する詳細は以下の通りである。
・アクチベーターⅠの計測 施術テーブルに出来るだけ垂直にゲージを立て、関節手で計測器を固定。直下に向けてインパクトを与えた。・模擬頚椎スラストの計測 第1指MP関節接触(CP7)で、関節手にて計測器を固定、矯正へのアシストも行い、左右5回づつ計測した。・模擬仙腸関節PIスラストの計測 豆状骨接触(CP1)で、関節手にて計測器を固定、矯正へのアシストも行い、左右5回づつ計測した。 ・模擬骨盤ドロップテクニックの計測 |
計測平均値(kg) | |||
アクチ | 調整ネジ最大時 | 調整ネジ最小時(ネジ溝1) | |
環椎チップ付き | 2.243(最大3.160 最小2.062) | 1.856(最大2.085 最小1.579) | |
環椎チップ無し | 2.339(最大3.201 最小2.167) | 1.756 (最大2.181 最小1.309) | |
模擬頚椎スラスト | 3.005(最大3.268 最小2.701) | ||
模擬仙腸関節PIスラスト | 計測不能 | ||
模擬骨盤ドロップテクニック | 3.740(最大4.131 最小3.363) |
【考察】
徒手スラスト群はイメージの中でのスラストになるので、実際の施術との間にギャップがあるのも事実だ。実際にはスラスト前にクラッキングする場合もあるからだ。その場合、更にスラストの刺激を加える術者も少ないだろう。
今回調べてみると、アクチベーターⅠの環椎チップには意味が無いと言う点が浮き彫りになる。以前から疑問に思っていたのだが、感覚的に衝撃が緩衝されるような気がしていただけなのだ。実際に加えられる衝撃力にはそれほど差が無い。これは調整ネジ最小時の数値が、環椎チップ付きのほうが大きい所をみて頂ければ解ると思う。
最も重要な点は、最大スラスト力と最小スラスト力の差が大きい点だ。更に調整ネジ最大時の最小スラスト力と調整ネジ最小時の最大スラスト力を比較すると、調整ネジ最小時のほうが上回っている。これはどう言う事だろうか?単純である。私のアクチベーターに対する使いかたが下手なのである。
アクチのスラスト力はそのバネに依存してる。単純にバネの強度を計測してみると・・・[Finger Pressure Meter(FP計)による計測]
調整ネジ溝1から0に戻すのに必要とする力は、約4.5kgであった。また、調整ネジ最大から0に戻すのに必要な力は、7.5kgであった。この点からすれば、調整ネジ溝1で約4.5kg、最大時には約7.5kgのスラスト力を得られるはずである。では何故上記のような低い数値なのだろうか。
答えは簡単である。アクチを打った瞬間を考えると、矯正とする方向とは逆に、術者側にも衝撃が加えられるのだ。つまりアクチによるスラスト力はSCPと矯正手に分散されるのだ。ならば両手で固定して同様の実験をしてみたらどうだろうか。環椎チップをつけたままで、それぞれ5回計測してみた。結果は
調整ネジ最大時 | 調整ネジ最小時(ネジ溝1) | |
1 | 3.866 | 2.811 |
2 | 3.069 | 2.537 |
3 | 3.220 | 2.516 |
4 | 3.515 | 2.857 |
5 | 3.462 | 2.734 |
平均 | 3.430 | 2.691 |
最大スラスト力は向上しているし、回数ごとの数値差が少なくなっている。これは固定を強力なものとする事で、安定したスラスト力が得られる。と言う事が言える。しかし、何故予想される機械的な限界値までスラスト力を加えられないのだろうか?
これは単純にアクチの発射するスピードに、術者の抑える力が追いつけない為だ。AK-MMTを想像すると理解が早い。つまりアクチのように非常に早いスピードで加えられた力(刺激)に対して、人間は万力のように完全に止まる事は不可能なのである。調整ネジ最大時では 約7.5kg-3.43kg=約4.07kg の反動力を受けてしまうし、調整ネジ溝1の時には約1.89kgの反動力を受けてしまうのだ。しかもこれは両手で固定した状態で行った実験である。無造作に片手で行った最初の実験でのアクチを持った腕にかかる衝撃力は、調整ネジ最大時5.161kg、調整ネジ溝1では2.644kgにも及ぶ。これはSCPに加わる衝撃力よりも高いのである。
これはたまたまだが、徒手スラストには最大スラスト力と最小スラスト力の差が少なく、アクチによるスラスト力の差よりも低い事が覗える。これは安定した矯正力と言う事が言えるが、それは何故だろうか。
これも実に単純な答えで申訳無いのだが、両手で行っているからだ。矯正手からのスラスト力を間接手が逃がさないように、しっかりと固定しているからスラスト力がブレたり拡散しない為である。
これを更に発展させて考えると、間接手が単なる「固定」ではスラスト力を逃がす可能性があるとも言える。これはアクチの実験のように、しっかりと固定しようと思っても、その反動力を完全に押え込む事は不可能であるからだ。間接手は矯正手によるスピードに反応できないだろうから、その衝撃を間接手に逃がす。つまり4.5kgの衝撃が加わったとしても、約2.6kgは逃がしてしまうのである。
これを完全に防ぎ、頚椎、頭部をその位置に止める為には、スラスト力に対して、間接手は瞬間的同時にカウンターを当てるように、スラスト力を加える必要がある。約4.5kgの矯正力なら、間接手側は約2.6kgのカウンターを当てることによって、完全にスラスト力を矯正箇所に集中させることが可能となるのだ。と言う事はより少ない力で矯正可能と言う事になる。
しかし、これも逆に考えれば、余分な矯正力を固定手が逃がしてあげているとも考えられる。
どちらが受者にとって負担が少なく、効果的なのだろうか。実際には両方の要素を持って矯正にあたってると思う。感覚的に矯正力が逃げそうな頚椎の場合は、カウンターを当てるだろうし、柔軟性の無い頚椎には矯正力を逃がしているのだろう・・・。
結論として、徒手スラストを行う場合、直接手と間接手と言う関係は、単なる固定による安定だけではなく、矯正力を逃がしたり、逆に強めたりする調整を行っていると考える。これは間接手や固定手と言う考えではなく
「調整手と言う考えが適切」
だと思う。とするならば、アクチによるスラストも“調整手”の存在が必要となるだろう。でなければ力が安定し、その力を逃がしたり、強めたり出来る徒手スラストのほうが優れていると言う事になる。
また、アクチの反動力を受ける、術者の腕への障害の可能性もある。今回かなりの回数を打ったが、正直言って右肘が痛い(笑)。アクチの術者側への反動力とはかなりのものだと言える。片手でのアクチを持つ場合の、反動力に対するホールド方法を工夫しないと、スラスト力の縮小だけでなく、自分の腕も痛めてしまう可能性がある。逆に言えば、徒手スラストに術者側への反動力が無い訳ではないので、スラストを行うカイロ師は自分の関節を保護する為に、日頃よりトレーニングを行う必要性を感じた。
「アクチベーターⅠってどうなの?」
って疑問から行った実験だが、機械を用いた新たなAK-MMTの計測方法への可能性、徒手スラスト時の固定手に対する考えにまで発展したので、皆さんに考えてもらいたく、ウェブ上で公開した。実際に生体に適切な刺激量は何kgが適切なのか?等の問題は誰かがやってくれるだろう。