様々な疾患についてカイロプラクティック的な見解を記事にしておりますが、書き進めて行くと大抵苦い思い出があり、それを経て今の自分があるのだな~と思い知らされます。
股関節痛の苦い思い出
私がまだ20歳台で三田駅の隣にあるビルの3Fにあったカイロプラクティック院に居た頃の話です。
ある女性の患者さんがおりました。たしか某航空会社の女子プロ(?)バスケ選手でした。当時3~5人位のカイロプラクターが常駐しており、彼女は私の同期T氏が担当しておりました。
彼女は私にとって最初の壁となりました。こう書き出すとなんとなく失礼な感じがしますね。まあ、彼女の股関節痛が取れずに酷く落ち込んだと言う話です。
このT氏が当時はチャランポランな奴で(今は違いますよ。立派な2児の父親ですし、腕も良いです)、全く勉強もせずに感覚のみで施術するような奴でした。勤務態度も然りで、遅刻は常習だわ、昼休みにパチンコ行って帰ってこない等、周りの人間は皆T氏に振り回されていました。それでもクビにもならずに、周りの人間から嫌われなかったのはT氏が“憎めない”人柄であったからだと思います。
ある日T氏が院にいなく、私がバスケ選手を診る事になりました。私はそんなT氏が対処できる疾患ならたいした事ないだろうとタカをくくっていました。結果は冒頭に書いたとおり惨敗でした。失敗談ばかり書き連ねると
「こいつ下手なんじゃないか」
と心配されるかもしれませんねw
他にも色々な・・・まぁ、良くも悪くも沢山の経験しましたw
当時リベンジできたかどうかは最後までお読み下さい。
仙腸関節が原因で股関節痛のケース
当時の敗因は解かっております。股関節痛を股関節だけで考えていたからです。
股関節は上腕肩甲関節と並んで、非常に可動性に富んだ関節です。と言うことは骨形状による支持性は低く、関節を安定させるために靭帯や筋肉へ依存する割合が高い関節と言えます。広い運動終末でその可動範囲に左右差が生じるため、普段の生活では可動制限の左右差に気づかない事が多いです。しかし背骨と違って簡単に自分の眼で左右差を確認する事が出来ます。
まず仰向けに寝てみて下さい。そのまま頚だけを起こしてつま先を見て下さい。右利きの方で診られる例として、右足先が左に比べて外を向いていませんか?
脚を伸ばしたまま両足先を外に開いてみて下さい。右は開き易いのに、左は右ほど開きませんよね。
今度は両足先を内側に閉じてみて下さい。左は内側に閉じ易いのに、右は左ほど閉じられません。
つまり右は股関節、骨盤が外に開いて、左は股関節、骨盤が内側に閉じる方向に歪んでいるのです。目で見てこれだけ歪み(左右の可動性差)が確認できるのですから、股関節の上にある骨盤、脊柱への影響は推して知るべしと言えます。
上記の例では股関節による可動制限よりも、仙腸関節の歪みによる可動制限の割合が高いです。
*右の足先が外へ向いている場合
逆に内側へ向いている場合
のように仙腸関節が歪んでいる*
仙腸関節を矯正するだけでもかなり改善するのですが、股関節自体も矯正しなければ元の状態に戻り易いです。他にも股関節、仙腸関節に問題が無く、骨盤ユニットが右へ向いている、つまり腰椎部でネジレが生じている場合もあります。いずれにしてもこれだけの左右差が生じているのは、あまり良い状態ではありません。
さて痛みに話を戻します。関節面自体には痛みセンサーはありませんので(骨頭の靭帯にはあるが)、関節に生じる痛みは、関節周辺の靭帯や筋の痛みセンサーに何らかの刺激が加えられている状態と考えます。それが炎症であったり、軟部組織への圧迫、張力、せん断力(どれも炎症を伴う)などであったりします。
どうやって敗北したか
上記右利きの例で言うなら右股関節は外旋になり、これにより股関節前面にある靭帯は伸ばされます。この張力が股関節痛を招く場合はもちろんあり、若い頃の私はこれを戻す方向へ施術したわけです。
しかし痛みは取れなかった。そこで股関節について調べました。当時はネットのような便利なものはありませんでしたので、池袋の谷口書店はもちろん、三省堂だの八重洲のブックセンター、国会図書館、師匠に相談したり、悔しいですがT氏にも教えを請いました・・・。これらの過程で磯谷式、AKA等に出会いました。これはこれで良い経験です。
股関節リベンジ
そして後日再び彼女を施術する機会が訪れたのです。慌てて探し回った答えは結局現場にありました。カイロプラクティッは疾患を考える時に、痛みの原因を考えます。
この場合股関節を可動させて、どの方向で痛みが増強するのか、可動性の左右差はどうかなどを調べます。そして変位があるのなら、それは「最初のドミノなのか」を考えなくてはなりません。最初のドミノならそこを起こせば良いでしょう。しかし最後のドミノだとしたら・・・それを起こしたところで変化は得られないでしょう。
最初のドミノを探すには身体全体を診て、患部との関連性を考える必要があります。そして個人の特異性を考えます。彼女はバスケの選手です。プレー中の姿勢は中腰で、膝、股関節が半屈曲位。
導き出した答え
私は疾患側の寛骨前傾による、大腿骨頭前面と関節窩(恥骨)による圧迫からの炎症と言う答えを導きだしました。股関節痛側の上前腸骨棘の前下方変位を後上方へ矯正、つまり仙腸関節の矯正ですね。
通常のカイロプラクティックなら上後腸骨棘の後下方変位を矯正することを重要視します。しかしそんなものは単なる統計学的に導き出した一般論でしかないのです。
さらに勉強しなおした骨盤の解剖から、寛骨を一つの骨とする認識を捨てました。寛骨が一つの骨であるなら「患側上前腸骨棘の前下方変位を後上方へ矯正」で事は済んだでしょう。しかし完全には融合せず腸骨、恥骨、坐骨間にある程度の柔軟性が存在するとしたら恥骨の矯正も必要です。
正確には
「上前腸骨棘の前下方変位を後上方へ矯正すると同時に、恥骨を前上方へ矯正」
しました。結果は♪。
教訓
・なりふり構わずもがかなければ、現場にある答えに気づかない。
・木を見て森も見て、その関連性を探れ。
・常識は疑ってかかれ。
です。
業界向け追記:
具体的な矯正方法はトムソン・テクニックの骨盤マイナスリスティングに対する仰臥位矯正方法です。私が駆け出しの頃、なぜトムソン仰臥位テクニックはASISと恥骨へ同時にコンタクトするのか解かりませんでした。しかし寛骨を完全に融合した骨と捕らえず、腸骨、恥骨、坐骨間に極微量の柔軟性があると考えると、デリケートな箇所である恥骨にわざわざコンタクトするも頷けます。また股関節痛のすべてがこの矯正で緩解する訳ではなく、あくまでも寛骨前傾によって大腿骨頭前面と関節窩が近接することによる炎症(ここからOAになる場合も)による痛みに対する施術です。仙腸関節の可動性、股関節のROMなど矯正方法よりもより確実な“診立て”が重要だと思います。