サブラクセーション概論

サブラクセーションとは

ラクセーション[luxaition]⇒脱臼 になりますので、サブラクセーションsubluxaition]を直訳すると、「亜脱臼」になります。ですが、現在カイロプラクティック界では、この「亜脱臼」の意味としては使いません。どのような状態を指して「サブラクセーション」なのか考えていってみましょう。

隣接関節の動力学的変調

簡単に説明すると、隣接関節の動きが悪いと言う事になります。
上下の椎骨とその間に挟まれた椎間板の髄核により、それぞれの椎骨間で、屈曲、伸展、側屈、回旋することができます。これが典型的上下椎骨のモデルです。実際はさらに、水平方向への前後左右の“すべり”の動きも行えます。

しかし、椎骨一つ一つの運動は小さく、身体を曲げたり(屈曲)、反らせたり(伸展)の動作は、複数の椎骨を連動して行われています。このため、椎骨のうち一つが可動性減少(フィクセーション[fixation])したとしても、腰椎や頚椎の全体的な可動性はさほど変化はありません。可動性減少した関節の変わりに、他の関節が代償性運動によって、全体的可動性を補ったりするためです。

また、中間位(立位で自然な状態)のみでのレントゲン像での検査でも、「異常無し」となります。

ですがこの状態が長く続くと、身体には様々な症状がでます。可動性の悪い椎骨を動かそうとするため、周辺筋肉が疲労しやすくなりますし、代償性運動を行わなければならない関節も、通常以上の動きをしいられるため、周辺組織が引き伸ばされるような負担がかかります。

我々カイロプラクターは一つ一つの関節の可動性を調べて、関節の可動性回復のための施術を行います。
その可動性を検査する方法が「モーション・パルペーション」です。

静止画像のレントゲンや、全体的な可動性の検査では「異常無し」であっても、カイロプラクティックの一つ一つの椎骨の可動性を調べる検査では「○番○番間の可動性減少[fixation])」となったりするのです。

隣接関節の解剖学的変調

単純に[隣接関節の位置的なズレがある]と言う事になります。脊椎骨の関節面の形状から、立位及び座位において、下の椎骨に対して上の椎骨は後方にズレやすく、レントゲン静止画像でも確認する事ができます。

従来の「サブラクセーション」の考え方は解剖学的変調、つまり位置的なズレのみを主張していました。確かに、ズレによって次のようなことが想定できます。

  1. 椎骨の上関節突起の前面は椎間孔の後壁を、椎体後面下部は椎間孔の前壁を構成しているため、椎骨が回旋変位(下位椎体に対してネジルようなズレ)、後方変位(下位椎体に対して後ろへのズレ)、又は前方変位(下位椎体に対して前方へのズレ)を起す事で椎間孔の前後経を短くし、脊髄神経その他を圧迫する可能性がある。
  2. 椎弓根が椎間孔の上下壁を構成しているので、側屈変位(下位椎体に対して横に傾くようなズレ)を起すことによって、椎間孔の上下経が短くなり脊髄神経その他を圧迫する可能性がある。

ただ、これも実際には椎間孔の縁が直接脊髄神経を圧迫するのではなく、周辺の組織を圧迫することで、間接的に脊髄神経を圧迫することになります。

隣接関節の生理学的変調

単純に隣接関節周辺に痛みや、熱感がある、と言うことです。
関節周辺の痛みには、捻挫の時のような、だまっていても痛い「疼痛」や、動かした時に痛みが出る「運動痛」、身体の重みがかかった時に出る「過重痛」や、周辺を押すと痛い「圧痛」などがあります。

ここでいったん関節の基本構造を見直してみます。
関節は骨と骨を“さやえんどう”のように、関節包靭帯が包み込んでいます。骨と骨の隙間である関節腔は、潤滑材の役割をはたす、「滑液」で満たされています。関節面には痛みを感じる知覚神経受容器も神経の遊離終末もありません。

でも、この関節面の変形などで、痛みを感じます。これは、軟骨そのもので感じているのではなく、関節運動が滑らかでなくなるために、神経繊維のたくさん分布している関節包や、周辺の靭帯、筋肉にひねりや引っ張りを起し、それが痛みを引き起こすのです。

椎骨間にも同じような構造である髄膜関節として、「椎間関節」が存在します。椎間関節も動きが悪く(可動性減少)なったりすることで、関節包や周辺靭帯、筋肉に負担がかかり痛みをひきおこすのです。

更に、痛みを感じる知覚神経と同一の脊髄の高さから出る運動神経が支配する筋肉に反射を起し、筋肉の収縮(筋攣縮)を招きます。この筋攣縮(spasm)が長く続くと、筋肉自体にも痛みが発生し、更に椎骨自体にも圧迫されるような力が働き、炎症症状を悪化させる、と言うような悪循環を招きます。

この炎症症状は
・熱感
・機能障害(痛みなどで動かせない)
・腫脹(ハレ)
・発赤(周辺が赤くなる)
・疼痛(黙ってても痛い)
の5大徴候を呈します。

よって、該当する関節周辺に筋攣縮や、機能障害、圧痛、疼痛(違和感のほうが多いかな)、熱感などがある場合はサブラクセーションを疑います。

結局サブラクセーションとは

これらの要素(解剖学的変調、関節動力学的変調、神経学的変調)がそろって
「サブラクセーション」
かなと。
臨床的には椎骨のズレは頻繁に診ることができます。だからと言って必ずしも脊髄神経の圧迫症状や、周辺の筋組織に硬結が出るわけではありません。

例えると、靴の中に小さな石が入ってしまったとしましょう。その石を踏むとチョット痛いです。ずーっと踏んでるともっと痛いです。でも反対側に体重をかけたりして、常に踏まないようにしていれば、何時の間にか小さな石は無くなってしまいます。

もしもこの時、反対に体重をかけられなかったり、軽く小石を踏んだ状態のまま姿勢を変えられないような状況だった場合、痛みなどがでます。

つまり、椎骨のズレにより脊髄神経を(間接的に)圧迫したとしても、その椎骨の可動性があれば、ズレや、そのズレを生じさせた原因は自然治癒力によって修復される。しかし椎骨の可動性が減少していた場合、脊髄神経に対する(間接的)圧迫は、連続的に行われ、圧迫症状や、周辺筋肉の攣縮を招く。

というように考えています。

参考書籍